私は昨年から、ホールシステムコーチングⓇ説明会の進行を担当しています。
そこで最もよく出る質問が、「チームコーチングとファシリテーションは何が違うのですか?」です。
もしかしたら、プロコーチもこの違いを明確に説明するのは難しいかもしれません。
今回は、「チームコーチングとファシリテーションの違いは何か?」を一緒に探求していきましょう。
チームコーチングとは何でしょうか?
最初にチームコーチングの定義を確認しましょう。
国際コーチング連盟(International Coaching Federation、以下ICFと表記)では、チームコーチングを以下のように定義しています。ICF日本支部ウェブサイトより引用します。
「チームコーチングは、チームが継続的に高いパフォーマンスを発揮し、継続的に発展していくための力を与えるものであり、コーチングがサポートする革新性、柔軟性、適応性、目標の整合性の特性すべてを必要とします。
ICFのチームコーチング・コンピテンシーモデルは、チームコーチングの明確で簡潔な定義を提供しています。それは、共通の目的と共有されたゴールに到達するために、チームの能力と可能性を最大限に引き出す方法で、チームのダイナミクスと関係性について、チームとの共同創造的で内省的なプロセスでパートナーとなることです。このモデルは、チームコーチングのコンテクストにおけるチームコーチング・コンピテンシーをベースに統合するように設計されています。」
そしてホールシステムコーチングⓇでは、アドバンスコースでチームコーチングについて以下のように伝えています。
「チームを一つのシステム(一生命体・一人格・一つの脳)として捉え、チームをコーチングします。チームのビジョンを明確にし、共有したうえで、共通のゴールを達成するために行うコーチングです。」
チームが一人の人のようです。双方とも、チームに焦点を当てていることがわかります。
では、ファシリテーションについても定義を見ておきましょう。
日本ファシリテーション協会ウェブサイトによると
「ファシリテーション(facilitation)とは、人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう
舵取りすること。集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習等、あらゆる知識創造活動を支援し
促進していく働きを意味します。」
となっています。
私には、ファシリテーションは「成果」「ゴール達成」にポイントが置かれているように見えました。
では次に、チームコーチングとファシリテーションの違いを見ていきましょう。
ICFウェブサイトでは、チームビルディングなどのチーム開発手法(全6種類)と比較がなされています。今回はその中からチームファシリテーションとチームコーチングを抜粋します。
チームファシリテーション Team Facilitation |
チームコーチング Team Coaching |
|
---|---|---|
時間枠 Time Frame |
短期間、1-5日 Short,1-5 days |
“長期間、数カ月 Longer term, months” |
“プロセス Process” |
対話をファシリテートする Facilitate dialog |
“チームとコーチがパートナーとなる Team and coach partner” |
“成果が見込める分野 Growth Area” |
“明確化 Clarity” |
“目標達成/チームの存続 Achieved goals ; Team sustainability” |
“チームダイナミクス/対立の解消 Team Dynamics ; Conflict Resolution” |
“最小限 Minimal” |
“統合的 Integral” |
“専門性/主導権 Expert ; Ownership” |
“ファシリテーターとチーム Facilitator and team” |
“チーム Team” |
*ICF チームコーチング・コンピテンシーより抜粋
また、上記の表の続きには以下の記載もあります。
『チームコーチはチームメンバー間の対話を促進するために、頻繁にファシリテーションの手法との間を
行き来していることは明らかです。
ファシリテーションとは、コミュニケーションを強化し明確にすることです。
その作業は表面的なものにとどまり、チームダイナミクスの分析にまでは至りません。
チームコーチングは、ファシリテーションよりもさらに深く扱います。
チームメンバー個々の個性やチーム内の小グループの存在やそれらがチームのパフォーマンスにどのように影響するかなど、表面下の力学を探ります。
チームコーチングとファシリテーションを明確に区別することはできないかもしれません。
むしろ、ファシリテーションとコーチングの間には連続性があり、優れたチームコーチはこの連続性を持ちつつ、いかなる場面でも円滑に使い分けられるでしょう。』
自分は今、どの役割を担っているのか自覚的にふるまうことが必要だと感じました。
ファシリテーターのイメージは「旅行の添乗員さん」や「化学反応の触媒だ」とも言われます。
ファシリテーターは「(触媒の如く)変化しない存在」、「外部の人間」、「第三者的」とも言えます。
以前私は、あるプロファシリテータ―に
「プロジェクトに反抗的だったり、非協力的なメンバーにはどう対応しますか?」
と質問しました。その回答は、いろいろ対応した上で変化がない場合
「スポンサーに働きかけて交代してもらいます」とのことでした。
そしてチームコーチングの場合、チームコーチは「私たち」に含まれます。
私は冒頭の説明会で、自分のチームコーチングの活用事例として長年携わっていた「PTA活動」をお話します。
昔私は当初、ビジネスの合理性や効率を持ち込んで、運営に四苦八苦していました。その後、チームコーチングを学び、「私たちどうなりたいの?」を問うようにしました。
すると関係性の質が変わり、徐々に成果がでるようになりました。
また、先述のICFチームコーチング・コンピテンシーには
「ファシリテーションとコーチングの間には連続性があり、優れたチームコーチはこの連続性を持ちつつ、いかなる場面でも円滑に使い分けられるでしょう。」
と記載があります。
チームコーチングとファシリテーション、違いを知る以上に双方の強みを知ることで可能性が広がると感じました。
ぜひファシリテーターの皆様にも、チームコーチングを知っていただきたいです。
ここまでチームコーチングとファシリテーションの違いを見てきました。
双方を知り、連続性を持って使い分けることで相乗効果が期待されます。
先日、私はプロファシリテータ―からの依頼で、長期プロジェクトに関するミーティング進行を2時間だけ担当しました。
プロジェクトが本格化する前に、チームメンバーの感情について取り扱いたいとのご希望です。
その際、ビジネスのゴールに加えて、参加メンバーの「ヒト」や「関係性」、「場」にフォーカスした問いをもとに、「私たち」で話し合いました。
終了後、一緒に進行したファシリテーターからもらったフィードバックです。
「感情のこと。自分の感情のクセを知っていると楽になる。参加メンバーの納得感をみて、『自分を知る』って効果が大きいなあと感じました。
参加メンバーの、これからのコミュニケーションは変わると思いますし、私(=ファシリテーター)も働きかけがしやすくなりました。」
ファシリテーションとチームコーチングが、共創する未来が見えました。